広がる闇。
この景色、前にも何処かで見た記憶がある。
記憶はあるのに、全く思い出せない。
どうしたんだろう、こうなる前、何してたんだろう。
周りには何も無い。虚無の空間。存在すら怪しい未知の世界。
そんな世界にいるのだとしたら、私は存在するのか。
虚無の中で、ただ等しく虚無であるのか。
自分の存在意義とは何なのか。
存在していて、どうなるのか。
存在しなくて、どうなるのか。
―消えたらどうなるのか。
消えれるのかすら怪しい。
何かが動く気配を察して意識が覚醒する。
気が付くと自分は自分の部屋の床で寝ていたのだ。
住み慣れた空間。しかし私に与える感情は安堵などではなかった。
また、此処にいるのかと。絶望し、落胆した。
もし仮に、此処から抜け出せたらと、何度思った事か。
・・・抜け出す?
記憶が戻りそうな、そんなもどかしさに身を悪くしながら動体を確認せんとする。
そこにいたのは何故か見覚えるのある男がいた。
何処か不安げな表情で、しかし嬉しさを綻ばせながら私に問う。
「えっと、大丈夫?」
最初に安否を確認する。
当然と言えば当然の反応なのだが、この時の私にはそんな考え方は無かった。
何せ400年以上誰とも会っていないしこの部屋から出た事が無いのだ。
聞かれた質問に対し、対応する応答文をそのまま返す。
「だぃ・・・じょう・・・ぅぶ・・・ぅ」
物凄く久し振りに自分の声を聞いた気がする。
その声は酷く掠れていて、音になっているかどうかすら怪しい。
途切れ途切れの言葉を紡いでくれたこの男は私を抱きかかえ隣にあったベッドに乗せる。
「?・・・なに、して・・・」
文は最後まで続かなかったが、その後の彼の反応から、悪意ではなく善意による行動だと思った。
何故、こんな私にこんなに優しく接するのか。
私は今迄誰にも優しくされなかったのだ。
姉にも、メイドにも、誰にも。
なのに、何故彼は私に対し、優しいのだろうか。
湧き上がる疑問。答え切れない思い。ノイローゼと言う奴だろうか。
責められた私の精神は逃げ場を探すように私の体を蝕んで行く。
結果、私は手足を動かせない状態になった。
唯一首から上に対しての力は働く。
その力を使って私を此処に移した男を見る。
単純に、何者なのかと、見極めたかった。
「そんなに見つめられると照れるんだけど」
何故その受け答えをしたのかは分からないが、感覚的に彼は今心にも無い事を言っているのだろう。
その理由までは分からないが。
私から何か言おうと言葉を捜すも今迄会話という会話をしてこなかったので、こう言う時どう返せばいいのか分からない。
「まあ、なんだ・・・とりあえず、名前聞いていいか?」
名前・・・?
あぁ、私の名前、何だったかな。
呼ばれなかったし、名乗らなかったから記憶から消えかけていた。
自分の存在証明にもなる、私の名前。
誰に付けられたのかすら分からない、私の名前。
誰にも呼ばれないまま記憶から消え去ろうとした、私の名前。
「えっと、変なこと聞いてご―」
「・・・フラン」
言葉が重なってしまった。
しかし、相手方は嬉しそうに微笑んだ。
そして又思う。
何故だ、と。
何故この人は私の名前を知っただけでそんなに嬉しそうなのか。
正直要らないとすら思ってしまう、こんな名前を聞いてどうなると言うのか。
「フ、ラン・・・?」
「そう、わた・・し、の・・・名前・・・・」
やはりまだ声は空気に慣れてくれない。
彼は私の名前を心底不思議そうに呟いていた。
その顔にも綻んだ笑みは隠せていない。隠す気すらないのだろう。
そして納得したようにこう語り掛ける。
「フラン、か・・・いい名前だな」
正直、何が起きたのか分からなかった。
名前を教え、名前を連呼され、最後にはいい名前だと言われた。
ありえない、可笑しい、不合理で、不可解で、あってはならない。
あたかもそれが禁忌のようにわが身を呪縛する。
しかし、付け焼き刃のような凍った声ではなく、温もりすら感じるその声が禁忌目録を破壊する。
私の中で、何かが壊れたような感覚。
決してそれがいいものなのかという判断は下せないが、少なくとも今は良い事だと思える。
「私は蓮って言うんだ、漣蓮」
今の文に名前があるとは思わなかった。
「れん・・・?」
自然と問い返していた。
自然に、無意識に、興味を持って尋ねていた。
彼は頷く。
忘れかけていた名前を教え、忘れたくない名前を教えられた。
ならば、当然・・・。
「そっちも、いい名前、だね」
後書き
いや、まだテスト中だよ?
じゃあ何で記事書いてるのかって?
そんなの簡単さ、気晴らしだよ。
元々ブログの運営方針が自由気ままにやっていくだったし、これぐらい普通だよ普通。
そして物凄くどうでもいいけどフラン視点物凄く書きやすいんだよね。
何故か分からないけど心に闇を抱えてる系女子って凄く描写しやすいマジワロタ
40分で書き上げたものですので誤字脱字等ありましたらご報告下さい。
よいフリーライフを。
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