第0話 脱走 フラン視点

流石に、もう限界。

いつだって、言い付けを守ってきた。独断で動かなかった。おとなしくしてた。

なのに、私に対する対応は全く変わらない。

酷くならないだけまだましなのだろうが、400年以上も地下深くに幽閉して、優待の一つも無いとは、流石にどうなのか。

逃げたい。

人生で初めて、400年以上言いなりになって、初めて自分の意志で動いた。


逃げよう。


400年も同じ場所に同じ日課を繰り返していればそれぞれの欠点盲点が勝手に見えてくる。

朝昼晩、専属メイドがご飯を持ってこの部屋の戸を開ける。

此処は地下だから窓や入り口以外の戸は一切無い。

出るならあの扉、唯一つだけ。

狙う時間帯は勿論朝か昼だ。

私達は吸血鬼。夜に活動し、昼を苦手とする種族だ。

私も十分辛いが、この現状に比べれば全く痛くない。

400年以上前の記憶を奮い立たせ、館内の構造を思い出す。

部屋を出て、左に真っ直ぐ行くと1階に通ずる階段があったはず。

それ以外は・・・全く思い出せない。

400年も前の記憶だ。思い出せても信用し難い。

臨機応変に対応して行くしかないのか、と絶望する。

しかし400年以上の苦行を乗り越えた。その自己暗示だけは私に確かな勇気を与えてくれた。


いざ、決行の日だ。

扉に仕掛けた工作は上手く働いたようだ。

扉を閉める際に、メイドは鍵をかけていく。しかし、彼女らはあまりその鍵がしっかり掛かったか気にしない。

鍵が上手く掛からないようにして、それを確認し無い事を願うばかりだったが、結局は成功となった。

扉は開いている。扉や時計の類が無いから分からないが今が朝、若しくは昼だと思い、動き出す。

ゆっくりと開く扉。ギイーと開く扉の音にばれるかもと言う恐怖心を抱きながら外の様子を伺う。

人気は一切無い。これは好機。

しかし、あくまでも此処は館である。

右を見ても左を見ても同じ見た目の廊下が続いているだけだ。

これじゃどちらに階段があるか分かったもんじゃない。

400年以上前の記憶にあった左に階段があると信じ、扉を閉め左へと進む。

辺りには人の気配はおろか、生活の色すら見えない。

本来であれば異様な光景だが、今となっては都合が良い。

誰もいないのならそのまま進めばいいだろう。

生活の色が見えないとなれば最悪隠れ処として使えるだろう。

進み、進み、更に進む。

それでも変わらない廊下の景色。

紅や黒を基調とした色合いで等間隔に並べられた装飾や扉が無機質で何処か空恐ろしい。

何処まで行っても変わらない景色。

訪れる大きな不安。

―もしや、ループしているのではないか

―もしや、もう既にばれているのではないか

―実はもうばれていて、遊ばれているのではないか

恐ろしい。怖い。

しかし、此処迄来たのだ。どちらにしろ今更引き返すと言う事は出来ない。

精神を支配されそうな恐怖の感情を押し殺し、前進への糧とする。

ついに、今迄と違う光景を目に入れる事が出来た。

階段だ。階段があったのだ。

これで報われる。

今迄の自分の努力が、精神が、思慮が。

1階へとあがり、出口を探しあたりを見渡す。

1階に出てしまえば簡単な事で、出口が見付からないなら最悪窓から抜け出せばいい。

見つけた出口。大扉と呼ばれる、館の入り口に相応しい威厳有る扉を越えるべく、足を踏みだした刹那。

迫る気配を察し、全速力で駆け出していた。

背後に迫るは実姉レミリアその人だ。

恐ろしい剣幕と表情からは友好の意志は汲み取れない。

誰がどう見ても、殺しに来てる。

全く隠されない殺気に怖気ながらも領内から脱すべく急ぐ。

大扉を潜れば、姉はもう追っては来なかった。

しかし、逃げている最中にいくつか深手を負った。

左腕はあらぬ方向へと曲がり、右足は切り傷によってまともに動かせない。

右横腹は裂け、体力も、精神力も、気力も無い。

だが、私は抜け出したのだ。

あの監獄から。独房から。ただ一人だけだった寂寥感から解放されたのだ。

磨り減った気力以上に喜びが勝った。

自然と零れ落ちる笑みを隠さず、思いっきり笑う。

笑い、笑い、笑い・・・。

やがて気疲れしたように足を進める。

向かった先は、名も無き森。

森に入り、木々を退け、広々とした空間を見つける。

今迄気付かなかったが、今は昼だったなと。

吸血鬼だと言うのに、昼に起きてた姉にびっくりする以上に今の自分の行動にも同時に驚く。

館を抜け出し、外へ出れた喜びは、疲れとなって押しかかる。

疲れはやがて身体を蝕み、やがて、意識が薄れる。

涼しげな森の木々が悠々と風に揺られ、木漏れ日が美しい。

この神秘的環境の中で死ねるのなら悔いは無いなと思う。

まず、最初に平衡感覚が無くなる。体の制御が利かなくなる。

そして、倒れる。

やがて、目は見えなくなり、鼻は匂わなくなり、皮膚は感じなくなり。

最後に聞いた音は人の声だった。

「おい!大じょう―」

続きは聞こえなかった。聞こえるよりも先に、聞こえなくなった。

遠く、遠く、遥か彼方。

何処かで――


後書き

二作目ですね。

単純な文章量じゃ多くなりましたがいかんせん内容が薄いので・・・。

ともあれこれで話が繋がりましたね。

これはまだ比較的簡単な接続でしたけど、今後関係が絡んで来た時の伏線管理とか出来るかな。

めっちゃ不安。

基本伏線管理を徹底する為に漣蓮視点を進めたらフラン視点も進め、フラン視点が進んだら漣蓮視点も進むと言う形で更新すると思います。

まあ、二作以上で一部分完結とか言うシチュエーションも無い事は無いので原則こうなりますと言う目安ですね。

それじゃ、次回作にご期待下さい。

よいフリーライフを。


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