ついに明日となった。
言ノ葉唯の誕生日が明日となり、今日プレゼントを買う予定だ。
本来であれば、僕みたいなカースト下位の者がカーストトップの人にプレゼントなんて烏滸がましいかもしれない。
だが、その前に唯さんから5,000円はする高額な物を貰っているのだ。
そんな事されては、地位がどうとか言ってられない。
今迄貯めた貯金を崩して、財布に詰め込み、さあ買いに行こう。
「・・・どこ行くの?」
「誕プレ買いに行く~」
「・・・ついてく」
「それって誕プレの意味あるの?」
「・・・買って、私の欲しい物じゃなかった時よりは、まし」
「いやまあそうだけど」
「・・・どうせなら、自分で試用したい」
「なるほどね~、んじゃ待ってる」
「・・・お願い」
数分後。女子の身支度は長いとはいうが、彼女に限ってはそうではないのかもしれない。
「・・・終わった、いこ」
「と言うか、ペンタブか~・・・」
「・・・何か、不満?」
「いや、不満っていうか」
「・・・ん?」
「もしかしたら僕の望むイラスト書いてくれるかもって期待してる」
「・・・出来たら」
「よっしゃ、言質取った!」
「・・・出来ないかも」
「まあ、そこは強要しないし、本当に気が向いたらでいいよ」
「・・・うん」
「っていうか、趣味で絵描きか」
「・・・変?」
「全然いいと思うぜ?」
「・・・そう」
「そういえば、ラフ絵とかってもうあるのか?」
「・・・見る?」
「え?あんの?あんなら見たい」
「・・・ちょっと、待って」
腕に提げていた鞄の中を漁って、中から一冊のノートを取り出し、それを見せて来た。
「・・・こんな感じ」
「ふぁっ!?めっちゃ上手いじゃん」
「・・・えへへ」
「へ~、絵上手いんだ」
「・・・驚いた?」
「普通に意外だったわ」
「・・・なんか馬鹿にされた気がする」
「してませんよ~!褒めてますよ~!!」
「・・・じゃあいい」
「あらそう、意外と現金だな」
「・・・何?」
「なんでもありませ~ん」
話している内に、先日来た電器店の前にまで来ていた。
店内に入り、事前に見ていた場所へ赴く。
「この店だと此処にあるぜ」
「・・・!」
無言でキラキラした目をペンタブに向ける唯さん。
商品を手に取ったり、実際に色々触ったりして確かめているようだ。
が、最終的に値段を見て項垂れている。
「・・・ちょっと、高いね」
「大丈夫だ、貯金はある」
「・・・そう?」
「だが桁数は4つがいい」
「・・・そうするつもり」
「あざっす・・・あざっす・・・」
何分か経った時、一つの箱を持って来た。
「・・・これがいい」
「ふむ・・・?」
「・・・値段も考えた」
「あざっす」
見てみると、自分の見た通りの商品だった。
そこそこするものの、初心者には十分と批評されていたのでこれがいいのだろう。
知らんけど。
「んじゃ、買うか」
「・・・あ、そうだ」
「ん?何?」
「・・・ネットで買った方が安い」
「あ、そうなん?」
「・・・うん、そっちでいい・・・ほら」
そう言ってスマホの画面を見せて来た。
表示されている金額は2,500円くらいだ。
そして目の前に表示されている金額は3,000円。
たった500円と言えど、されど500円。
そこまで唯に気を使わせている事に若干気が引けた。
今日はそれだけで終わった。
ちょっと考えてみると今日注文したとして、届くのは基本明後日。
しかも・・・。
「けど、今から注文しても年越すんじゃね?」
「・・・別に、気にしない」
「誕プレは誕生日に送るもんじゃね?」
「・・・気にしない」
「あらそう」
そんなわけで、ネットで買う事にした。
支払方法をコンビニ決済にして、確認メールが来た後、払込票のメールが来た。
それをコンビニで見せ、金額を払った。
決済者が僕なので必然的に受取人も僕になるのだが、その辺はまあ、気にしなくてもいいだろう。
28日。
「誕生日おめでとう!」
「おめおめ~」
「おめでとう」
「・・・有難う」
この場にいるのは当事者である唯さんと、僕と、何故か来た漣蓮と笹波華凛さん。
相変わらず名前が似てる二人だなと思いながらも、唯さんの誕生日を祝う。
唯さんに関しては、自分の誕生日なのに自分で料理したりしてたし。
多分だけど何故か来たあの御二方もきっとその料理が目当てだろう。
一応誕生日ケーキあるんだけどなぁ・・・。
それを唯にも知らせてあるはずなので出さないって事は無いだろうけど・・・
忘れてないかとちょっと不安になる。
けど、そんな時に聞けるほどこの僕のメンタルは強くない!
自分で言ってて悲しくなって来た。
「・・・あるもの、食べていいよ」
「っしゃ~!」
「ありがとね、頂きます」
今迄気にしてなかったが、華凛さんってすっげぇ上品だな。
なんていうか、物静かだし、言葉使いも綺麗だし。
容姿も綺麗だ。恐らく人気投票なら2位は取れるのではないだろうか。
まあ、1位はこの人に取られるだろうけどね。
「・・・蓮も、食べて」
「あ、うん、頂くね」
「直々に食べていいと言われたぜ」
「黙ってろ!蓮!」
「こ、心に深い傷が」
「ざまぁ!」
「君には言ってない!そして当事者は黙らっしゃい!!」
混乱して来たので順番に言おう。
唯さんが、蓮も食べていいと言った。
漣蓮がそれに反応した。
笹波華凛さんが漣蓮におめえじゃねえと言った。
笹波華凛さんの黙れにメンタルダメージを受けた鳴神蓮。
ダメージを受けた鳴神蓮を馬鹿にした漣蓮。
そんな漣蓮に再度黙れと言った笹波華凛さん。
そして終始一言も喋ってない言ノ葉唯さん。
波乱万丈とは此の事を言うのかなと思った。
漣蓮らががつがつと料理を貪って、それぞれ唯にプレゼントを贈り、解散した。
「何貰ったん」
「・・・前に見たいって言った本とか」
「あぁ、だからあそこに」
「・・・ん?」
「いや、こっちの話」
「・・・そう」
「と言うか、僕だけ誕プレ渡せなくて気まずかった」
「・・・来年ね」
「渡すから、ちゃんと」
「・・・其処は別に疑ってないんだけど」
「あらそう」
「・・・んじゃ、ケーキ、食べようか」
「あ、忘れてたわけではないんだ」
「・・・ん?何で?」
「いや、何となく漣らが来てる時に出すと思ってたから」
「・・・ふ~ん、そう」
「あら?どうされました?」
「・・・ふ~ん」
「ん?????」
「・・・まあ、いいや、食べよ?」
「おっそうだな・・・そういえば、どんなケーキにしたんだ?」
「・・・モンブラン」
「モンブラン?」
「・・・ちょっとでかいの」
「でかっ!?何此れモンブランじゃねえだろ!」
「・・・モンブラン」
「え~・・・」
「・・・食べよ?」
「あ、うん」
「・・・食べないなら全部貰う」
「食べたいですぅ!って言うか、全部?マジ?」
「・・・余裕」
「マジで?絶対凭れるって」
「・・・全く」
「すげぇな」
「・・・食べる?」
「一部だけ貰います、全部は無理です」
「・・・ん」
明らかにモンブランのサイズじゃないモンブランを貰って、食べた。
味は普通のモンブランだけど・・・で、でけぇ。
さっきちょっと多めの料理食った後なのに此れ全部は食えないだろ。
「なぁ、此れ、全部食べれるのか?さっき食事したじゃん」
「・・・デザート、別腹」
「良く聞く単語だなぁ」
「・・・要らないなら貰う」
「要ります!欲しいですぅ!」
「・・・ちぇ」
「段々と感情が表立って来てますよ!?」
唯さんの第一印象は物静かで感情を表に出さない謙虚な人、だった。
人は第一印象で決まるというが、其の後の付き合い方で又変わるというのもある。
まさに其の通りだなと。
そして、かなりの甘党だと分かった。しかも耐久型の。
「・・・あ」
「ん?どった?」
「・・・いや、その」
「どしたん、歯切れ悪いなぁ・・・らしくないぞ?」
「・・・じゃあ、言うけど」
「おう、誹謗中傷でも悪口でも陰口でもど~んと来い!慣れてるから!!」
「・・・えぇ・・・えと、誕プレの事だけど」
「うん、ペンタブ?」
「・・・それと別に・・・その」
「うん?」
「・・・頭、撫でて欲しい」
「え~っと・・・・・・・・・ん?」
よ~しじっくり考えるんだ鳴神蓮。
頭を撫でる?誰の?
状況的に唯さんしか居ないじゃないか。
え?マジで?そんな事したと知られたら私もう学校行けないよ?
あ、先ず帰ってなかった。
って違う!そうじゃない!
え?唯さんの頭を撫でる?
その辺の野生の猫とかじゃなくて?
あ、もしかして飼ってる犬の世話をして欲しいという隠語かも知れない。
と言うかそれ以外に考えられない。
「えと・・・誰の?」
「・・・私の」
「な、何故に」
「・・・して欲しいから」
やばい、色々やばい。
もう状況的に断り辛い・・・。
けど撫でてしまったら本当に死んでしまう。
此の状況で既に心臓が死に掛けてるのに!
撫でちゃったら今度は心が死んじゃう!!
「その・・・いつ?」
「今」
「わ~お即答」
「・・・駄目?」
「うぇ~・・・ど、どしよ」
「・・・嫌?」
「いや、嫌って事は無い」
「・・・そう?」
「それだけは確かだ」
「・・・でも、さっきから渋ってるから」
此れはあれだ・・・色々考えるよりも吹っ切れた方が楽かもしれん。
今後の事なんか捨てて素直に要求に従おう。
「ふぇっ!?」
「なんだよ、撫でろって言うから撫でたのに」
「・・・きゅ、急だったから」
暫く無言が続いた。
僕はもう既に吹っ切れているので恥ずかしいとかいう感情は殆ど無い。
が、唯さんに関しては違うのだろう。
頬を赤らめ、顔が火照っている。
撫でる度に甘い香りが漂って来るもんだからこっちも少しはドキドキした。
と言うか、何より。
「・・・うぅ・・・うぅん・・・あわぁ・・・」
地味に漏れてる声が艶かしくてしょうがないんだよなぁ。
別に興奮はしないけど勘違いされるから是非とも止めて頂きたい。
ほら、其処の窓から漣蓮が此方を見ながらスマホ片手に・・・。
「って、お~~~~いてめえ何撮ってんじゃぁ!」
「いや~おめえさんもやるなぁ」
「ふ・ざ・け・ん・な」
「まあまあ、最初から見てたから変に解釈はしてないぜ?」
「さて、刺殺・絞殺・撲殺・斬殺・・・どれにしようかな」
「分かった分かった、悪かったから物騒な事言うなって」
「・・・何か、ごめん」
「こっちこそ」
「んじゃま、帰るわ」
「ちょっと待てこら」
「なんや」
「データ消してけ」
「おめえ、目、怖いぞ」
「消・し・て・け」
「分かった分かったって」
「ほら・・・消したぞ」
「一応言っておくが、言いふらすなよ?」
「殺気が凄いんですけど」
「言・い・ふ・ら・す・な・よ?」
「怖い怖い・・・言わねえから、言わねえから止めてくれ」
「言ったらどうなるか・・・」
「少なくとも此の造形を保て無い事だけは確実に理解した。んじゃ~ね~」
「・・・蓮、怖かった」
「うん、すまん」
「・・・そんなに嫌だったの?」
「唯さんを撫でる事は嫌じゃないけど、変な噂が広まるのが嫌なんだよ」
「・・・あぁ、そういう」
仮にも相手はカーストトップである。
カースト下位の人間が気安く触れてはならない存在なのだから、事実の通り伝えても絶対ひん曲がった解釈される。
「・・・気持ちよかった、またやって?」
「気が向いたらな」
「・・・向かせれば・・・(ボソボソ」
「何か言った~?」
「・・・何も」
「んじゃ、年末の準備しますか」
「・・・うん」
ホント、年末は忙しいなぁ。
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