何故学 クリスマスと言われても・・・

クリスマス。

年に一度だけの、国民的行事。

其の賑わいは他に類を見ないレベルで盛り上がりを見せ、経済効果も期待される程だ。

勿論企業は売上が伸びれば嬉しいし、消費者としてはクリスマス用の商品があると是非とも買いたいと思う。

利潤の一致による、所謂Win-Winな状態。

だが、此れは社会的に見た時のクリスマスである。

唯一人に目を向ければ、華やかな1日を送るものも居れば、対照的に暗い1日を送るものも居る。

僕、鳴神蓮は後者である。家に引篭り日常と何変わらない生活を送る、そんな人間だった。

だが、今年も違うらしい。

今自分はクリスマスパーティに向けて部屋を催している真っ只中である。

今迄を見れば全く考えられない状況だ。

だが、去年もこうだった。

2度目となれば流石に慣れるというものだ。

此の企画の主催者である言ノ葉唯と一緒に部屋を飾るひと時は、とても甘く、柔らかいものに・・・


なると思ったかこのやろ~!!

同学年の男子からの殺気がやばいし、女子からの視線も痛いしで最悪だわ!!

もう一度言おう。此の学校の特殊な校則でペアとなった彼女は学年1カワイイと皆に認知されている存在なのだ。

そんな彼女と一緒に居る男子など勿論性別関わり無く皆からの怒りを買う。

それだけならまだ分かるのだが、彼らにはもう一つ腑に落ちない点があるらしい。

其れは、彼女のペアが此の僕であるという事。

陰キャで根暗で引篭りの廃人と一緒、というのが心底気に入らないらしい。

だが此方としては其れも腑に落ちない。

だって僕から誘ったんじゃないもん。なんなら向こうから誘ってきたんだし。

と言うかおめえら此の誘いを断っても「蓮の分際で・・・」とか言うんだろ?

分かってんだよ!!何したって駄目なんだろ!!泣くぞ!!!!

まあ・・・去年からずっと思ってる事だ。

けど、もう殆ど諦めてるから。うん。

「・・・こっち、終わった」

向こうは終わったらしい。

こっちは全く終わってない。此の状況に文句を垂れまくってたから全然作業が進んでいない。

「・・・そっち、手伝う」

「あっはい・・・すいません」

部屋の飾りつけの役割分担は最初からされていた。

彼女は終わったのに自分は終わってないという事に少し責任感を感じながら残りの飾り付けをする。


「っしゃ、此れで終わり!」

「・・・終わった」

やっとの事で終わった部屋の飾りつけ。

去年もそうだが、此の飾り付けの計画は全て唯が行っている。

だからだろう。

見栄えが良く、其れで居て美しい。

華美ではあるが、過度な装飾はされていない。

自己主張の激しいものは一つも居ないのに、全体が一つの完成形として主張する。

それで居て去年よりグレードアップしてるのだ。

全くもう、本当に頭が上がらない。

「・・・うん、今年もいい感じ」

そう言って写真を撮ってる唯さん。

何枚か撮り終えて、満足気にこう切り出した。

「・・・他のみんな、呼ぶ?」

「どうぞごじゆうに」

滅茶苦茶に棒読みだった気がする。

うん、気のせいだろう。

一ついう事があるとしたら、ガチガチの陰キャ様は自ら人を呼ぼうなんて思いません。

呼ばれたから行く、もしくは来たから参加させるが精一杯です。

其のあたりも、人間として尊敬していた。


ガチャッ。

うわ、来ちゃった。

「うわ~、すっご~い!」

「おわっ、相変わらず装飾綺麗だな」

「去年よりも綺麗になってる~!」

唯さんに呼ばれて来ない事が可笑しい事でもあるかのように、呼ばれた人全員が来た。

一部のクラスメイトと生徒会の皆様である。

クラスメイトは殆ど名前も顔も覚えてないから知らないけど、生徒会の人は何となく覚えている。

「よ~おめえさんちゃんと手伝ったか~?ん~?」

此の絡み方をするのは大体同級生の漣蓮だろう。

クラスメイトであるが、生徒会で一緒なので覚えている。

「えっと・・・一応」

「ん~そうか~?本当は殆ど任せてたんじゃねえの~?」

さっきからわざと回りくどい言い方をしているので、此方も曖昧に返してたら唯さんからお言葉が掛かった。

「・・・ちゃんと手伝ってくれたよ、ありがと」

最後の言葉の時だけ此方を向いて言った。

「へ~、意外だな。ちゃんと手伝ったんだ」

「あんたは僕をなんだと思ってるのさ」

「ナマケモノ」

「どっちの意味かなっ!?」

「どっちでも同じ様なものでしょ」

笑いながら話に入ってきた生徒会役員書記の笹浪華凜さん・・・だったか。

この人とはクラスと言うか学科が違うので殆ど関わらないのだが、生徒会と言う接点がある。

「じゃあ怠けたいです」


一つ皆に知って欲しい事がある。

陰キャと言うのは、万人と喋られないのではない。

普段話している人とはある程度普通に喋れるのだ。

まあ、コミュ障があるので会話の発展とか言う高技術なモノは出来ませんが。

「ところで、クリスマスと言えばあれだよな」

漣蓮が言った言葉。

クリスマス・・・もしかしてプレゼントを欲しているのだろうか。

だとしたら生憎私は金欠中なので無理だ。

「プレゼント?」

「は?ちげえだろ」

え?違うの?

「クリスマスと言えば・・・

 キリスト教について口論する日だろ!」

何を言ってるんだ此の人は。

「あっそっか、そうだったね!」

何を言ってるんだ此の人は。

「・・・忘れてた、やろ」

何を言ってるんだ此の人は。

・・・本当に何を言ってるんだ、此の人達は。

其処から何故かキリスト教の話になった。

最初は社会の授業みたいな内容だったのに段々と専門的な内容になるもんですから僕一人だけ取り残されてた。

そんな議論も終わりを向かえ、各々が帰っていった。

部屋の片付けをし始めた時、唯に声を掛けられた。

「・・・今年も、ありがと」

去年、滅茶苦茶に渋った事がある。

だから、唯の中で僕はこういった催しが嫌いな人だとなっているのだろう。

何一つ間違ってないが。

「・・・はい、此れ」

渡されたのは小さいとはいえないまあまあなサイズをした箱。

ラッピングされてる。ひょっとして・・・なんて思ったり。

「・・・気に入ってくれるとうれしいな」

え~どうやらひょっとするようです。

「えっと・・・?」

「・・・プレゼント、クリスマスプレゼント」

う~んどうしよう。

人に渡されるなんて思ってないから渡すとも思って無いんだよなぁ。

こうやって貰ってしまった手前、此方も何か渡さなければならないとは思うのだが。

如何せん手元には渡せるようなもの等一つも無く、更に言えば金欠だ。

流石にやばいと思ったので、其れを返そうとした。

「あの、嬉しいんだけど・・・返せるもの無いし、いいよ」

「・・・開けてみて」

話聞いてました?

「・・・いいから」

滅茶苦茶促されるので其れに従う事にした。

綺麗に包装されたラッピングを綺麗に捲って行くと、更に箱があった。

其処に書いてあったのは。

【外付けHDD 1T USB3.1/3対応 PC/TV用】

「外付けハードディスクドライブ!?」

「・・・前に、欲しいって言ってたから、どうかなって」

「え・・・うっそぉ」

最近は扱うデータも増えて来た。

流石にやばいと思って、確かに外付けHDD欲しいとは言っていた。

だが、どれだけ安くしようとしても5,000円は下回らない高額なものである。

そんなものをさり気無く渡され、言葉を失う。

暫くの間、無言の空間が続く。

だが、返せるもの等無いのにこんな高額なもの受け取れない。

返そうとしたのだが。

「・・・私が持ってても、あんまり意味無いし、買っちゃったから使って」

「えぇ・・・」

まだ信じられない・・・。

一つだけ、聞いておきたかった。

「此れ、買う為に・・・どれほど、と言うか何処から」

早々に察してくれたようで、早めに返事が返って来た。

「・・・サンタさんから!」

いつも比較的無表情な彼女だが、その時確かに笑っていた。

こんな僕にこんなものをくれて、なのに清々しい顔をしていられる。

唯が見せた笑顔に、少し可愛いと思っていた自分が居た。

「・・・あ、そうだ」

「・・・お返しとかは大丈夫だからね」


「・・・一緒に居てくれるだけでお返しになってるから」

はにかむ唯であった。

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