何故学 入学した後に決められても・・・

「はい、それじゃペアで学習して下さい。今日は自習にします」

月曜日、6時間目の授業の最初に教科担任の先生から出た言葉。

今日は自習にする。学生なら一度は聞いた事があるのではないか。

では、何が疑問なのか。大体の者はこれが分からないのだろう?

ペアで学習して下さい。

これはこの学校独自の制度からなる面倒な仕組みだ。


私立漣高等学校。

数ある名門校の中でも、最近話題に上がりやすい学校だ。

名を上げ始めたのが入学した後だったので、これを参考に学校を決めたわけではない。

独自の制度と言うのが、男女共生学習制度。

なんかよくわからないと言う人向けに簡潔に且つ極端にいうなれば・・・。

高校3年間、異性と付き合えと言う意味だ。

これにも正式な理由があるらしい。

余りしっかり聞いていなかったから殆ど覚えていないが、

「若年期の恋愛への関心が低い為」とかなんとか言ってた気がする。

だからこうなったんだとか。

非リアで非モテな陰キャからしたら誠に迷惑極まりない話だ。

そんなわけで最初の1カ月間は本当に地獄だった。

この1カ月間にペアを作れと言うのだ。

勿論、こんなしがない自分に声をかけるもの好きもおらず、ただ教室の隅で静かにしていた。

当然、自分から声をかけるなどもしなかったから1カ月が経とうとしていた。

出来なかったらどうにかなる等説明されなかったから別に何かあるわけではないのだろうけど。

今後の3年間を一緒に過ごす異性を選ぶ。

これは高校生でなくても難しいものだろう。

だからこそそれぞれアプローチが凄かった。

女子はよりイケメンとペアになろうと、男子はより可愛い子とペアになろうと。

その中で、特に人気を集めていた女子が居た。

名を何と言ったか・・・確か「言ノ葉 唯」だったか。

彼女は様々な男にペアになろうとせがまれていた。

しかし、彼女はその誘いの一切を断っていた。

肩位まで伸びている髪を整えもせず、ただ耳程度の高さで結っている。

前に出している少し多めの触覚が魅力的だった。

聞く所によると入学試験を満点通過したと言う。

それ程までに頭脳も高い、いわゆる高スペックな人間だ。

顔立ちはかなり整っており、何故か自分の周りで談話する陽キャの話を聞くに男子の間でかなり人気の子らしい。

そっけない性格や、意外と生真面目な部分など、見れば見るほど彼女の事を知れる。

知ったとて、自分には意味がないな。そう思って今日も教室の隅で寝る。

そんなことをしていたら、学校が指定したペアを作れと言う期限が近付いてきた。

出来なければ出来なかったで何かしらあるのだろうが、しょうがないと受け入れるつもりだ。

それがもし退学宣告だとしても受け入れる。自分には合わない高校だったのだと、中退に対する忌避もなかった。

後にそれが強制中退である事を知ったが、今は関係ないか。

それは期限まで1週間と言った頃だったか。

あの人気の子、言ノ葉 唯が声をかけて来た。

如何せん関係の殆どを切ろうとしている鳴神蓮はそれが自分に掛けられている声だと気付くまでに若干の時間を要した。

「・・・蓮君」

このクラスで自分にしかない名前を呼ばれて、初めて顔を上げた。

誰が誰の声かなどと覚えていなかった蓮は顔を上げて驚いた。

目の前にいるのはあんなに人気だったあの女子がいるではないか。

それだけで何故か心臓を圧迫されたかのような錯覚に陥ったが、何とか踏み止まる。

「えっと、何用でしょうか」

上手くコミュニケーションが取れない鳴神蓮。他人行儀の敬語を使ったビジネス言語で対応する。

実にチキン。

そして蓮はもう一つ驚いていた。

あんなにも人気を集めていたカースト上位に居そうな女子が、自分を下の名前で君付けしたのだ。

別に名字呼び捨てでいいのにと言うかそっちの方が色々楽なのにとか色々思っていた蓮であった。

だが、一切口にしない。

「・・・蓮君って、ペア出来た?」

かなり捻くれた性格をしている蓮はこれを皮肉と受け取り、そっけない返事をした。

「出来ねえよ、無理無理」

敬語は何処へやら、項垂れた様に、と言うか実際に項垂れた蓮。そこへまたも言ノ葉が声をかける。

「・・・じゃあペアなろ?」

衝撃的過ぎて、一瞬脳が機能しなかった蓮だが、早々に意識を取り戻した。

取り戻したとて先の言葉が理解出来た訳ではない。

とにかくと返事をしては、なおも困惑した。

「え~っと・・・なぜ僕?」

「・・・なんとなく気になったから」

思春期の名残があるであろう高校1年生。

この言葉をどう捉えるかは、思春期にしかわからないものがあるだろう。

しかしここは鳴神蓮。全く理解出来ずにいた。

ここで話は本題へ戻り、その如何を尋ねる事になった。

勿論、ペアが出来る事に越したことはない。

その点だけで、鳴神蓮はこれを承諾した。

そして後々この重大性を遅きながらに理解するのであった。


それから1年が経った話。それがこれ。

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